不動産コンサルタント 大野レポート No.04
タカラ塾
2001年7月7日
ある養護老人ホームを訪ねて
6月のある日、私の妻が不定期的に行っている養護老人ホームへの慰問(妻と妻の母が養護老人ホームを訪問し入居者の前で日本舞踊を披露する。)に運転手兼写真係で同行した。
妻は日本舞踊の舞踊家で6歳から始め、今は師範として弟子に教えたりもして踊っている。今回は、私の知人の病院の院長先生からの要望があり、それに答える形で実現しました。その老人ホームは、南大阪の閑静な住宅街の少し外れにあり、周りが田んぼに囲まれひっそりと存在していました。
3階建の3階が重度な入居者が入っておられ、2階、1階が比較的軽度な人が入っておられました。公的補助を受けている為、月間の負担は一人7~8万円なので、申し込みが殺到し、現在500人待ちとのことです。
慰問のための舞踊が始まると、車椅子の人も含め皆さんの顔が輝きだし、曲にあわせて口ずさむ人もおられました。最近読んだ書物「老人ホームを超えて」(21世紀デンマーク高齢者福祉レポート)松岡 洋子著によると、すでにデンマークでは約14年前に養護老人ホームの新設をストップし、自分の力で暮らせる高齢者のために、質のよい「高齢者住宅」の建設に力を入れてきています。
そのキーワードは、「住宅」「生活」「自立支援」で、どうして普通の「生活」が重要なのか?「自立支援」をテーマにしたケアはどんなものなのか?どのようにしてこのコンセプトにたどり着いたのか?等人間尊重が基本となって「施設」から「住宅」に大きく変化してきている。
一方の福祉後進国「日本」では、質・量ともに「施設」整備が不十分で、未だに「施設」数の増設から抜けきれない状態です。
それでも今回訪問した施設は、風呂場といい、採光を取り入れた建物設計、痴呆症の人にも気配りした安全性といい、最先端だと思いましが、将来いざ自分がそこにと言う気持ちにはなれませんでした。
それはおそらく高齢社会というのは、地域社会全体の問題であり、政治との関わり方、自立心と連帯意識、高い人道主義、一人ひとりの能力に応じた多様な生き方を認める社会のあり方こそが今問われているのではないかと思うからです。
そこからはじめて「構造的バリアフリー」から「社会的バリアフリー性」へ{外出のしやす(玄関周りや公共道路まで障害がない)・社会的なアクセスのよさ(バス停や駅に近い)・住宅ケアサービスの受けやすさ(在宅介護ステーションに近い)}、そして「心のバリアフリー性」へと進んでゆくのではないかと考える今日この頃です。
タカラ塾塾長 大野 哲弘